ある文芸サークルさんの作品について書こうと思っていたところ、うまくまとまらなかったので急遽別の話をでっちあげることにした。
今回は、最近人気のブラウザシミュレーションゲーム「艦隊これくしょん」。通称「艦これ」について書く。
人気というか、先月7月10日時点でユーザー数が10万前後だったものが、そこから1ヶ月にも満たない今日の時点でユーザー数が30万人を突破。同時接続が10万を超えているという話だから、空前絶後のブームを巻き起こしているといっても言い過ぎではないはずだ。
もちろん自分もプレイしている。7月10日の新規開放時に、呉鎮守府でゲームをスタートした。
そして、実際にプレイして、納得したのである。
艦これは面白いブラウザゲームだ。そして、昨今主流のオンラインゲーム・ソーシャルゲームたちへの明快なアンチテーゼとなる作品だとも感じている。
実を言うと、艦これを始めるちょっと前。情報を集めたり、プレイ動画などをチェックしたりしている段階から、かなり面食らっていた。
ブラウザゲームと言うと、俺のなかでのそれは「Travian」であり、「Ogame」であり、「戦国IXA」のような、対人戦が骨子にあるゲームのことだった。特に「Travian」などは正しく海外製オンラインゲームのテイストが盛り込まれており、ちょっと気を抜いたが最後、折角作り上げた自軍領土が他のユーザーに侵略され、粉微塵に粉砕されたりするようなゲームであった。
だが艦これはそうではない。対人要素は存在しているものの、それは(少なくとも現在の時点で)メインコンテンツではないようだ。
なお、ゲーム内容そのものに関する詳しいレビューなどは、「
4Gemer.net」さんの記事群が詳しいので、興味のある方は読んでみてほしい。
基本的なシステムそのものは、従来のブラウザゲームと大差ない。一定時間ごとに、四種類ある資材が少しずつ増えていく。資材はほかにも任務(つまりクエストだ)や、遠征(MMOなどにある、繰り返し可能なクエストのようなシステムに近い)などで獲得することが可能で、そうして蓄積したリソースを管理、運用してゲームを動かしていく。「艦これ」の場合、動かすもののメインが「擬人化された艦艇」であるところが、やはり最大のポイントだろう。
まず、ゲームに登場する基本的な艦種を紹介しつつ、Mildお気に入りの艦娘(かんむす、と読む)などを紹介したい。ここから、試しにフォントサイズを変更していく。読みづらくなければいいのだが。
戦艦
最初は戦艦。巨大な主砲を搭載しているだけあって、砲撃戦の火力はゲーム中トップの艦種で、砲戦での主力となる。この艦は金剛型の「霧島」。第三次ソロモン海戦において、米戦艦と砲撃戦を繰り広げた末沈んだ艦として有名だが、なぜだか艦これでは眼鏡キャラになっている。戦艦には他に水上機運用能力を付与された「航空戦艦」も登場する。太平洋戦争で終止符が打たれることになる大艦巨砲主義だが、「艦これ」では存分にその力を奮ってくれる。
正規空母
続いては正規空母。戦艦の時代を終わらせた航空機運用母艦である。ゲーム中でも艦載機によるアウトレンジ攻撃が再現されていて、強力な攻撃手段となっている。この艦は「翔鶴」。真珠湾攻撃から各地を転戦、マリアナ沖海戦にて、米潜水艦の攻撃を受け沈んだ。画像で言っている「あの惨劇」とはミッドウェー海戦のことを指しているようだ。
軽空母
空母に連なる艦種として、もうひとつ、軽空母というものもある。名前のとおり、正規空母より小型で、艦載機の搭載数などが劣っている。ゲーム中でもステータスにおいて正規空母には負けているものの、コストパフォーマンスがよく、運用の幅を広げてくれる頼れる艦種だ。この艦は「祥鳳」。空母への転用を前提に設計された潜水母艦「剣埼」を前身としている。珊瑚海海戦において米空母艦載機隊の猛攻を受け撃沈された。なお、艦載機運用を専門とした艦は、ほかにも「水上機母艦」がある。
重巡洋艦
続いては重巡洋艦である。巡洋艦は現代でも定義が曖昧で、一般的には「戦艦と駆逐艦のあいだ」の艦種と言われる。そのせいか、ゲーム中においても、重巡洋艦はいまいちパッとしない艦種と捉えられがちだ。砲戦能力は戦艦に次ぎ、コストパフォーマンスは戦艦より優れることが持ち味だが、つまりそれだけで、他の特化した艦種にくらべて、平均的すぎる能力が第一線にそぐわない。と評されている。自分はまさにそのコストパフォーマンス面において重宝している。それなりとはいえ、打撃力は局面においては必要十分であるので、使い方次第であろうと思っている。
この艦は妙高型の「足柄」。戦争末期の礼号作戦中、米潜水艦の雷撃を受け沈没した。
重巡から派生する艦種として「航空巡洋艦」というものがある。先述した航空戦艦と同様、巡洋艦に水上機運用能力を付与した艦種だ。この艦は「最上」。Mildが生まれてはじめて艦船のプラモを作った時に選んだ艦で、ことのほか気に入っている。水上機運用能力は、ゲーム中では正直ちょっと微妙な能力なのだが、使い方次第で十分役にたってくれる。また、水上機はまだ種類が少ないので、今後のアップデートによっては大化けする可能性を秘めている。
軽巡洋艦
次は軽巡洋艦。重巡と比して「搭載されている主砲の口径が小さいもの」を、一般的に軽巡に分類するようだ。史実として、「重巡よりも排水量の大きい軽巡」というものが実在している。ゲームにおいては重巡よりもさらにコストパフォーマンスに優れ、それでいてそれなりの打撃力と雷撃力を有し、さらに潜水艦に対する攻撃能力を持つ。この艦は「天龍」。駆逐艦とともに編成される「水雷戦隊」の旗艦としての能力を付与され、奮戦したが、やはり米潜水艦の雷撃を受け撃沈された。なお、軽巡洋艦から派生して「重雷装艦」、つまりこれでもかとばかりに魚雷発射管を搭載したタイプの艦も存在する。
駆逐艦
次は駆逐艦。WWⅡ時においては、対空、対潜戦闘能力を重視された艦種で、小型高速であった。ゲームでもその特性が反映されており、火力、耐久値や装甲は低いが、回避能力に優れ、対潜攻撃能力も有する。ゲーム開始時には5種の駆逐艦から1隻を選ぶようになっているため、序盤の主役であるとともに、その後も意外と必要になる場面が多く、ことあるごとにお世話になる艦種だ。この艦は「望月」。なぜ重用しているかの説明は不要と思う。
潜水艦
つい最近、というか8月1日に味方の潜水艦が実装された。言うまでもないが、海中を潜行し、魚雷による攻撃を行う。当然ゲームでもその特徴は再現されており、潜水艦に対しターゲットできる敵艦種は少なく、つまり対潜攻撃能力を持たない敵に対して圧倒的な優位に立てる。だが、そのぶんステータスは低めに取られているようだ。この艦は「伊168」。現時点で二種しか実装されていない潜水艦の片翼である。
以上がゲームに登場する艦種だ。
ところで、上で紹介している艦娘の図鑑画像のなかに、マイク型のアイコンがあることに気付いた方はおられるだろうか。このゲームは、獲得可能な100種以上の艦娘全員にボイスが実装されている。ボイス付きのブラウザゲームというのは、今ではそこまで珍しくもないのかもしれないが、ことあるごとに喋りまくるのには驚きを隠せない。
また、艦の能力を強化する際、レベルを上げること以外にも、装備をつけかえて強化できる要素が存在していて、これがまた自分が経験してきたブラウザゲームとは一線を画している。

これが装備の図鑑画面。
装備には、主砲、副砲、対空砲、魚雷、爆雷、戦闘機、攻撃機、爆撃機、偵察機などがあり、マニアックなことに、電探(レーダーやソナーのこと)や、タービン、三式弾(特殊な対空砲弾のこと)などの砲弾、さらにマニアックなところで甲標的(小型の潜水艇のこと)などもある。画像には例外なく可愛らしいキャラクターが添えられているが、登場する兵器群は硬派そのものだ。装備の組み合わせによるシナジー効果の存在も疑われており、意外な奥深さを持っている。
このゲームにおける敵のデザインも魅力的だ。
艦これにおける敵とは、「深海棲艦」と言われる謎の存在である。

画像のような人型や、異形のフォルムを持つものなど種類は様々。最近始まったイベントに登場するボスは喋ったりもする。一部のユーザーからは
バイドみたいといわれており、同感である。自分は、この敵のデザインがかなり気に入っている。
どう見てもBRSにしか見えない敵もいたりするが。
そういえば、自分はまだ体験していないが、艦娘は敵との戦闘中に、耐久力。つまりヒット・ポイントが0になると、轟沈してロストする。死体や骨は残らないため、復活させる手段は存在せず、完全に消失する。なかなかエグい仕様だと最初は感じていたが、注意して運用していれば轟沈は簡単に回避できる。そこまで酷いものではない。
ここまで書いたが、自分がなによりもこのゲームに感じる魅力は別にある。こんな大袈裟に書くこともない、単純な要素なのだが……。
それはなにかというと、「お金がかからない」ことなのだ。
昨今のソーシャルゲームやオンラインゲームは、基本的には課金前提の作りである。「パズドラ」とか「モバマス」とか「ガンオン」とか。人気のオンラインゲームには、少なからず「課金しないと勝負にならない」部分があるのは否定できないはずだ。書いていて思ったが、バンダイナムコゲームスはこの点において非常に容赦がない。
ところが、艦これはそうではない。
先述した艦娘や装備は、ごくごく一部の例外を除いて、無課金でも入手できる可能性がある作りになっている。
艦娘は、基本的に資材を投入して行う「建造」というコマンドを使って生み出すか、艦隊を出撃させて、敵を倒したあとに発生するドロップで入手できる。また、装備は、そうやって入手した艦娘から流用するか、「開発」というコマンドで資材を投入すると入手できる。この建造と開発のシステムが秀逸で、四種類の資材を投入する際、自分で数値を決めるのだが、投入した資材のバランスによって完成する艦種や装備に影響が出る仕組みになっているのだ。ただ単に300円投入してポチっとやるだけのガチャとは比較にならない楽しさがある。
もちろんレアリティによる入手難易度の差は存在するものの、建造や開発に必要なリソースは、普通にプレイしていれば勝手に蓄積されていくものなので、いつかは入手できる仕様になっている。少なくとも、今のところは。
もちろん、お金を払うことで有利になるような要素は艦これにも存在している。ざっと思い出すだけでも、
・入渠ドック、工廠ドックの追加
・資材の購入
・回復アイテムなど、特殊な効果を持つアイテムの購入
・艦娘保有枠の拡張
このあたりがある。とくに「入渠ドック」はゲームの進行に大きな影響を与えるものだ。敵と戦い損傷した艦は、一定時間ドック入りさせて修理する必要がある。初期状態では、そのドックは4枠あるうちの2つしか開放されておらず、残りの2枠を使用するためには現金を使って開放しなければならない。艦の修理時間は艦種、レベル、損傷の度合いによって増加し、たとえば高レベルの空母が大破したりすると、半日以上の修理時間が必要になる場合もある。このように、長時間の修理に時間をとられることを考えると、2つでは不足だ。
そして、入渠ドックの拡張は、1枠1000円で実行可能で、とくに制限時間などはない。永久開放である。
もう、色々なゲームを見てきた自分としては青天の霹靂というほかない。たった2000円である。これをたった、と言ってしまえる感覚の是非については置いておく。たった2000円なのである。
ぶっちゃけるが、そこそこ艦これを遊ぶつもりでも、使うお金はこの2000円だけで十分だと感じている。
資材は勝手に溜まっていくのだから、不足してきたならば放置しておけばいい。
工廠ドックの方は拡張しなくていいの? と思われる方もいるだろうが、その必要はない。工廠ドックは艦を建造するのに必要で、建造にも一定の時間を要するのだが、「艦の建造を一瞬で完了させる」アイテムが、普通にプレイしていてなぜかぽこじゃか入手できる。
回復アイテムはクエスト報酬で数個入手できる。そもそも無理なプレイをしなければ必要とされない仕様だ。よって必要ない。
艦娘保有枠は正直言うと若干不足気味だと感じるが、我慢すればやりくりできるレベルである。よって必要ない。
先述の入渠ドックにしても、確かに開放しておけばプレイは楽になるのだが、そこを我慢できれば開放する必要などないのである。絶対必要か? と言われると、そうではないと思う。
そういえば、ここまで書いて思い出したが、艦これは、

メイン画面がこのようなつくりになっている。この背景部分はプレイヤーの執務室という設定で、

こんな感じで模様替えできる。このインテリアの一部は購入に課金アイテムが必要なのだが、強いていえば、このインテリア用の課金アイテムはちょっと欲しいかなと思っている。その程度だ。
こんなオンゲに出会ったことはない。恐らく、プレイした大半の人がそう感じているはずだ。
しかし、同時にこうも思ったのである。「このゲームは儲からないんじゃないか」と。
艦これには、今現在の時点では、継続的に収入を得るシステムが存在していないからだ。
一般的なソシャゲなどは、定期的に課金の内容を更新することで射幸心を煽る。モバマスなどは月一ペースである。これは継続的に収入を得るために必要な措置であろうが、同時に毎月毎月凄まじい額を投入する廃課金勢を生み出し、問題視されている部分でもある。
ところが艦これでは、新要素はそのうち普通に入手できるようになってしまっている。今、艦これはイベント中で、新種の艦娘がイベント報酬などの形で追加されているが、さらに言うとそのうちの一隻は戦艦大和なのだが、イベント終了後、しばらくしてなんらかの方法で普通に入手できるようになる公算が高い。そして、課金内容については、先述した以外には存在しない。
すぐ近い将来、ゲーム本体の収入が激減することは火を見るより明らかだ。
そこで、このゲームが選択したのが、メディアミックス展開を収入のメインに据えるという、あまり見ないタイプの戦略である。
これは、他のゲームでも普通に選択されている方法ではある。またもやモバマスだが、こちらはCDを出したり、グッズの展開なども始まっている。フィギュアとかそういうのだ。もとより、モバマス自体がアイドルマスターという巨大コンテンツのなかの一部分だということを忘れることはできない。だが、モバマスはあくまでゲーム本体の収入がメインのコンテンツであるように思う。
艦これは、そうした先駆者たちの方法を踏襲しつつ、新しい試みを打ち出そうとしているように自分は感じる。でなければ、「お金を集めやすい要素」を、わざと廃したような作りになっていることが説明できないのだ。
このゲームを開発運営するのはあの角川ゲームスだが、運営チームの姿勢や対応は、ネットを見ていても概ね高い評価である。実際、自分としても、想定の十数倍というユーザー数を相手に日々悪戦苦闘している開発・運営チームには頭が下がる想いだ。運営への好感を多くのユーザーから得ているというのは大きい。
リリースタイミングも絶妙と言わざるをえない。ソーシャルゲームが乱発され、バブル期を形成しているといっても過言ではない現状で、それらと真逆のスタイルを指向する作品が世に現れたことは、特筆に値すべき出来事であると感じている。
さらに、上に書いたメディアミックス展開においては、母体である角川グループの存在があればこそ選択できるやり方である。複数のコンテンツへの展開は、それこそ角川のような一握りの巨大企業でなければ成立させることはできまい。
艦これのメディアミックス戦略。これはすでに書籍化、漫画化、フィギュア化、グッズ化などの形で結実しつつあり、異様に早いスパンでの展開を試みているのが実感できるものだ。この動きはさらに加速していくものと思われる。
自分が興味があるのは、その先に何をしようとしているのか? ということだ。
艦これというゲーム自体は、実のところ、それほど長命になるとは思えない。元ネタがWWⅡ時の艦船であるなら、いつか必ずネタが尽きるときがやってくるし、艦これというゲームのジャンルがニッチなものであることは否定できない。しかし、その内容は魅力的であり、ユーザーを惹きつける力があることは既に証明されているわけだから、もっと長期的なスパンで「何かをしようとしている」可能性は十分に考えられるではないか。
気が早い。といわれれば、それはそうだろう。なにしろ、艦これはサービス開始からまだ3ヶ月とちょっとした経過していないのだから。
この短期間でここまで耳目を集めるコンテンツとなった「艦隊これくしょん」のこの先に、自分はこれからしばらく一喜一憂することになるだろう。
これからもその動きを興味深く見守っていきたい。